「ブタの笑顔って、こんなにもかわいいんだ」
香川県の海と山に囲まれた小さな町で養豚場を営むおっちゃんと1200頭のブタの日々を記録した写真集『ブタとおっちゃん』(山地としてる)。
ブタの笑顔があふれる全編モノクロのこの写真集を眺めていると、ほっこりと思わず笑顔になってしまうのは、きっと僕だけではないはず。
今回はおすすめ写真集のひとつ『ブタとおっちゃん』の紹介です。
ブタってこんな風に笑うんだ
この写真集を開いて、今までほとんど考えたこともなかった豚の幸せそうな表情に驚きました。
「ブタってこんな風に笑うんだ!」
養豚場のオーナーである上村宏さん(おっちゃん)に心から安心して、身をゆだねるように暮らすブタたち。その表情はとっても幸せそう。
養豚場と言うと、つい「臭い」「汚い」といったイメージが沸いてしまいそうですが、この写真集からは不思議とそのようなイメージが伝わってきません。それは、おっちゃんの屈託のない笑顔とブタたちの優しい笑顔によるものかもしれません。
良い写真を撮るには技術だけじゃない!
ぱらぱらと見ているだけでも、不思議と幸せな気持ちになってくるこの写真集はプロの写真家によって制作されたものではありません。撮影者である山地としてるさんは、なんと元市役所職員。
山地さんが農林水産行政に携わっていた1978年、住民の声を受けて、養豚場を宅地開発が進む市街化調整区域から郊外へ移転させた。しかし、退職後の1997年、養豚場主である上村さんが大きな借金を背負ったことを知り、一家を訪ねる。
するとそこには、餌やりから糞尿処理まで自らの手を使い、一頭ずつを見つめ大切に育てる上村さんの姿があった。そのあまりに幸せそうな姿に打たれ、カメラを向けるようになった。上村さんが脳梗塞を患って養豚場を閉鎖するまで、気づけば10年間。自身の一生の友人として、「ブタとおっちゃん」の日常を撮り続けたそうだ。
まとめ(撮られる人の人生、撮る人の想いがつまった良い写真)
まだこの写真集を見たことがない人は、ぜひいちど見てみてほしい。
写真技術として上手く撮られた作品がつまった写真集というわけではなく、ほんとうに幸せそうな上村さんの日々、人生がつまった写真集。見ていると、上村さんの愛情たっぷりの人柄が想像できたり、ブタたちの嬉しそうな気持が想像できたり、ほっこりと温かい気持ちになれます。
また、こんな良い瞬間、素晴らしい笑顔、心底愛せる(思いを込められる)被写体をたくさん撮れた、撮り続けることができた山地さんのことを羨ましくも思えてきます。
こんな風にして良い写真はできあがるんだなぁ、なんて感じました。
▼2021年発売版。『ブタとおっちゃん』(2010年、フォイル刊)で話題になった作品群から、未収録写真も多数掲載されている。